隔離される「狂気」

「狂気という隣人 精神科医の現場報告」(岩波明、新潮文庫)という本を読んだ。検死官・法医学者による法医学物や元警察官による警察裏話、元検事による検察内幕物などに近い、専門家・インサイダーにしか書けない内容を含むレポートである。

網羅的、体系的な要約ではないが、既知の内容も含めて印象的な事項を挙げてみる――。
・代表的な精神病である「統合失調症」(数年前まで「精神分裂病」と呼ばれた)の発症率は、国や社会にかかわらず実に人口の1%にのぼる。
・その原因は、反精神医学の考えでは、家族関係など後天的要因によるとされたが、遺伝的・体質的要因および麻薬などによるものがほとんどであるという説が現在の精神医学界では主流である。
・ただし、同じ遺伝子組成を持つ一卵性双生児でも、一方のみしか発症しないことも多く、厳密・正確な発生メカニズムはまだわかっていない。
・こうした精神障害者の犯罪率は、犯罪全体では人口比率よりかなり少ないが、逆に殺人や放火などの重大な刑事犯では大幅に高い。
・精神病歴のある者が殺人などの重大犯罪を犯しても、警察はそれが判明すると、現在の日本の法律では心神喪失者として罪に問われないため、逮捕や通常の尋問、捜査もせず精神科ないし精神病院に送るだけである。
・大学病院の精神科が扱っているのは、比較的軽い「上品な患者」だけであり、殺人などの凶悪犯罪を犯した精神障害者は単科の精神病院に押し付けられる。
・統合失調症の殺人犯は、妄想や幻聴(その発生メカニズムは、自分の脳内で生まれた考えが「他者の言葉として聞こえる」というのが有力な説である)などから、まったく無関係な見ず知らずの人を殺すことなどがあり、その病気が判明すると警察から精神病院に送られるが、病院内なども含め、同様な殺人を繰り返すことも多い。
・そのため、大きな精神病院には、3人も4人も人を殺した殺人犯が何人も、なんの刑罰も受けずに暮らしていることも少なくない。
・現在の日本の法律では、精神病などによる心神喪失者は責任能力がないとされ、刑事罰の対象とならないのが原則だが、社会的反響・影響の大きい犯罪では、世論を考慮して、この原則を曲げた判決が出ることも少なくない。
・例えば池田小学校児童殺傷事件の犯人は精神病歴があったが、死刑判決が出された。
・重大犯罪を犯した精神病患者は、現在の日本では精神病院が収容しているだけだが、こうした人たちの再犯を防ぐための組織的な方策や制度の整備が急務である。
・日本は先進国の中で、失業率が低いにもかかわらず、最も自殺率の高い国だが、これは現代日本では「生きる意味」が見出しにくい状況になっているためかもしれないと、著者は考えている。
・医者の自殺率は高率だが、中でも精神科医は特に高い。

――以前から聞いていたが、「統合失調症患者が100人に1人もいるほど高率」とは実感しにくい比率である。それだけ、「患者の人たちが一般社会から隔離されている」わけである。子供の頃、近所には(そして日本中に)、頭のおかしな、変なお兄さんやお姉さん、おじさんやおばさんがいたものだった。それが今では、かつてほどいなくなった(都会のホームレスの人たちの一部などは別として)。

政治家にとっては票につながりにくいだろうが、特に、「精神病患者の再犯を防ぐための方策や制度の整備」は、政府をはじめとする政策決定者が取り組むべき重要な問題だが、なかなか大きな動きにはなりにくいのかもしれない。

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