テロリスト、シンデレラ、ゴキブリ

以下に橋川コミュでのコメントを再録。

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政治学にも法学にも素養がないが、今さら付け焼刃では無理なので、このままコメントします。

先日、宮嶋さんに二度目にお会いする前夜、何の用意もなく行くのは失礼に思われ、橋川さんの「テロリズム信仰の精神史」を読みました。読み始めた時点ですでに酒が回っていたので、読み終えたときには酩酊状態でしたが、「凄い論文だ」ということだけは感得しました(この論文が収められた『歴史と体験 日本精神史覚書 増補版』は昔持っていましたが、中身はろくに覚えていませんでした)。

この論文の冒頭近くに、もともと日本には「基本的人権」という概念がないが、これはあまねく、アニミズムの精神世界では共通だろうとあり、納得。

人権思想は、神>人間>(動植物・鉱物など)自然界という階層が当然視されるユダヤ・キリスト教的世界観からしか生まれなかったと、アレント(恐らくその前にも他の思想家・学者)が言っていることとも重なる。

人間とそれ以外との階層関係ということで言うと、(法学に無知なまま言うと)少なくとも日本の法律では、人間以外の動物などはすべて物としか見なされず、動物を殺したり怪我させたりしても「器物損壊罪」が適用される(「動物の権利」は認められない)。――ゴキブリやハエやカを殺しても逮捕されたり、罰されたりしない。犬公方綱吉は、動物の権利を擁護した先駆的事例でしょうか。

中沢新一は「カイエソバージュ」(だったか)シリーズの1冊を充てた神話論で、世界で最も有名なおとぎ話の1つ「シンデレラ」を取り上げていました。

シンデレラの語源のcinderは古英語で石炭などの燃え殻のことで、シンデレラは「灰かぶり」といった意味。寝泊りも含めかまどのそばに張り付いていないといけない下層の召使(労働者・人間)のこと。火に接するという仕事は、生では食べられない獣肉を食べられるようにする、自然と最前面で対峙する仕事だが、人間界の身分秩序では最下層に位置づけられた。

シンデレラは、妖精の力を借りて、カボチャやネズミ(だったか)を馬車や馬に変えてもらって、王宮の舞踏会へ行けたが、カボチャやネズミは、神>人間>自然界の階層秩序の最下層にある、人間界の最下層にあるシンデレラに隣接しているもの。

(ここで妖精が現れることは、ヨーロッパにキリスト教が普及する以前の多神教的世界の痕跡だろう)

シンデレラが王子に求婚され、プリンセスになることは、不平等な現世の身分秩序に対する民衆の逆転願望の形象化と考えられるという。

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フランス人が北米大陸に植民したとき、先住民と互いの神話・民話を語り合ったという。フランス人がシンデレラの話をすると、先住民から馬鹿にされたという。女性が相手からの求婚を待つ受身の存在でしかないこと、女性に容姿の美しさしか求めない社会の価値観が先住民には「あまりにも遅れている」と見えたからだという。


コメント

GandhiGanjee2015年04月21日 22:35
ゴキブリやハエやカは、不幸にも、人間という不条理な巨大暴力によって突然叩き潰され、死んでしまうという不運に見舞われることがある。

それは、人間が雪崩やがけ崩れ、火山の噴火や津波など、巨大な自然力によって殺されることと等価かもしれない。

こうした自然災害に遭遇する不運は、ゴキブリやハエやカが、人間の理不尽な暴力によって叩き潰される不運と似ているかもしれない。

GandhiGanjee2015年04月21日 22:41
人間は、ゴキブリやハエやカよりも、はるかに巨大で力が強く、また発達した大脳のおかげで、自分たちは虫けらよりも高等で上等な存在だと、勝手に思い込んでいるだけだろう。

GandhiGanjee2015年04月21日 22:46
でも一たび現実に戻ると、人間がゴキブリやハエやカを叩き潰しても、誰からもとがめられない一方で、いまだシンデレラの玉の輿伝説(身分秩序の逆転・補償幻想)に地球上の何億人もの男女が憧れる、という現実がある。

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