第五の権力、トヨタ

図書館の新刊書の棚で見かけた渡邉正裕・林克明著『トヨタの闇 利益2兆円の犠牲になる人々』(ビジネス社)を読んだ。

印象に残った点を二つに絞る。一つは冒頭近くに書かれていた「スポンサータブー」ということ。初めて見た語だが、恐らくマスメディアや広告業界では常識となっている内容だろう。'sponsor taboo'でgoogle検索してもほとんどヒットしないから和製英語らしい。その意味するところは、民放テレビはもとより、新聞・雑誌も収入の半分前後を広告に頼っているため、広告主の大企業については、有形無形の圧力や営業上の配慮による自主規制がある。そして、トヨタなど巨大な広告主についてネガティブな報道はほとんどなされない、という現実である。マスメディアが「第四の権力」なら、メディアに対し優位に立つ大企業は「第五の権力」だろう。この言葉自体は本に出てこないが、読みながら思ったことである。

1980年代の初め、藤原新也が、日本初の写真週刊誌として一世を風靡した今はない『Focus』の連載で、サントリーがシルクロードを素材にしたCMをパロディーにして事件となった。インドの路上に横たわる死体を犬が食べている写真に、「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」とコピーを付けた記事が問題になり、版元・新潮社の圧力で連載を打ち切ったことがあった。

そんな事件にまで発展しないうちに、トヨタに関するニュースや批判は揉みつぶされるか、マイルドに捻じ曲げられた上で報じられる。例えば、国内自動車のメーカー別リコール台数をまとめてみると、トヨタが断然トップである。2004~2006年の平均リコール台数は年間販売台数とほぼ同じ(国民・消費者より大企業をかばうためか、メーカー別リコール台数はいくら聞いても国土交通省が答えないから、著者が集計した)。また、巨額の「脱税」「所得隠し」と表現すべきところを、トヨタについては他社より多額で悪質でも「申告漏れ」となる。

この本には書かれていなかったが、広告収入には縁のないNHKでも大差ないのは、自らに追及の累が及ぶのを恐れる国(国土交通省)を慮ってのことか。政官業メディアの癒着…。

トヨタの暗部として焦点が当てられるのが、「プチ北朝鮮」とも言われる社風の中で従業員に強いられる過酷な労働である。過労死した夫の労災申請を認めさせるため訴訟に踏み切った妻や、御用組合に対して第二組合を組織した代表者などが取り上げられている。

著者の一人・林氏は、「おわりに――『破滅へと向かう旧日本軍』にならないために」で、次のように述べる。

「トヨタは、世界一の自動車メーカーになった。その原動力は、1分1秒、1ミリの隙も見逃さない徹底した合理主義にある。そして、失敗がないことを前提にシステムが確立されている。しかし、そこで働くのは人間である。いくら技術革新されたところで、生物としての人間そのものは昔と変わらない。機械のようにはいかないし、風邪で体調を悪くすることもあれば、失敗もする。
 だが、これらを無視しているのが『トヨタシステム』である。(中略)
 本来的に無理なことをしているのだから、このまま続けば、いつか破綻を来すだろう。世界のどこで、どういう形で起きるかわからないが、そう遠くない将来に大問題を起こすのではないかと私は見ている。」

トヨタ内部や中枢の人たちは、こうした批判にどう応えるのだろうか。林氏の最後の予想が杞憂に終われば良いのだが…。

この記事へのコメント

eiji814
2008年06月08日 20:25
トヨタの悪いところを書いた本があるのを、はじめて知りました。
そういえば、トヨタを持ち上げる本は山ほど出ていますが、その反対の本はほとんど見かけません。
いかにも日本的な現象ですね。

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