個人的経験の重要さ

読みかけた映画評論家の佐藤忠男著『見ることと見られること』(岩波現代文庫)の一節に、ささいにも見える個人的経験の大切さ、大きさを思い知らせてくれたエピソードがあった。

1930年生まれの佐藤氏が中学受験を失敗した理由について。筆記でも口頭試問でもできは悪くなかったが、不合格だったため、国民学校高等科に籍を置きながら2度目の受験に備えて特別補習授業に出た。そこで、入試の内情に関する特別な秘密情報を知らされ、不合格だった謎が解け、「中学なんか行くもんか」と誓ったという。

その中学の校長が愛国者で、入学者の選抜では筆記試験の学力より人格を優先したという。では、人格はどうやって見たか。校長自身が受験者全員の前で唐突に天皇陛下御製の和歌を朗読する。すぐに頭を下げた者は合格、そうでなかった者は不合格――教師たちがそれを判定するために、受験生は頭から番号札を掛けさせられていたという。

佐藤氏自身は、周りの少年たちに気づいて、やっと自分も頭を下げたのだった。氏は当時、天皇制に疑問を感じていたわけでもなんでもないが、校長の奇妙な振る舞いにびっくりしてポカーンとしていたのだった。そして、校長のやり方に対し、「そんなことで人格を計られたりしてたまるもんか」と思ったのだという。

この反発心とプライドに佐藤氏らしさがあるし、その後の独学者としての思想形成の根もあるのだろう。思想は自らの経験にこだわり、内省することから始まる。そして、その思索の果実が普遍性を持ちえたら、説得力が生まれるのだろう。

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