三島由紀夫の被差別部落ルーツ説は未だタブー

僕が大学と専攻を変えて日本文学科の大学院に入ったきっかけは、学部時代に三島由紀夫を読んだことだった。だが大学院で平均500~600ページ、36巻もの全集を読み、100冊か200冊かの三島由紀夫論を集めて読んだ末、これ以上、三島に付き合うのがいやになってしまった。

濃密な三島的世界にもう、うんざりしたわけだ。当代の人気作家だったし、自衛隊で憲法改正のための武力行使を訴えた後の割腹自殺という、衝撃的な死を遂げていたから、多くの人の関心の的となって、たいていのことが言い尽くされてもいた。ただ、今から思えば、三島が死んで10年もたってなかったわけである。

三島由紀夫のルーツが被差別部落だというのを最初に聞いたのは、吉本隆明の影響を受けた新左翼、叛旗派の集会で明らかにされた、と伝え聞いたのだったか。誰からどう聞いたにせよ、それを発表したのは「アメリカ人の日本文学研究者だ」ということが印象に残っている。大学院で授業を受けた第一次戦後派の文芸評論家、本多秋五からも聞いた気がする。その後、『噂の真相』の一行情報でも見かけた。

数年前にも、また今さっきも試みたが、インターネットで「三島由紀夫」「被差別部落」といったキーワードで検索しても、文芸評論家や日本文学研究者がこれを論じたページには行き着かない。行き着いても、「石原慎太郎は朝鮮人」とか、同じく「石原は部落民」といった書き込みがあるような、ごみ掲示板である。

今回、キーワードを変えて、三島の本籍地であり、父方祖父の出身地である兵庫県加古川市(昔は印南郡志方村)や、同和などの関連で検索してみた。すると加古川市在住の福谷佐太子さんという方の「時代遅れの解放学級は今こそ閉鎖を!」と題されたページにヒットした。この記事によると、「志方町の同和地区人口は、町全体の三割近くを占める…」という。――この記事で、三島の父方の祖父が被差別部落出身ということは、ほぼ確信した次第である。

もともとアメリカ人の日本文学研究者が現地調査をしてわかったと聞いていたから、恐らく間違いないだろうと思っていた。もし僕が三島由紀夫の研究者になっていたら、確認のため、自分でも現地調査をしていただろう。

その死から長い年月がたつのに、三島由紀夫の部落ルーツ説を改めて「タブー」だと思ったのは、猪瀬直樹の三島由紀夫評伝『ペルソナ』を読み終わった時である。週刊誌連載時にはデータマンなどを使って、調査を徹底する物書きだし、父方の祖父のことを大きく扱っていたから、必ずやこの「タブー」に挑戦すると期待して読み通したのに、一言も(!)これに触れていなかったからである。

今、改めて、「三島由紀夫・被差別部落・祖父・兵庫県・印南郡・志方」で検索してみると、ヒットしたのは、兵庫県の歴史に関する書誌のページ1つだけである。つまり、まともな評論家や研究者が書き、インターネット上にある文書で、このタブーに挑戦したものは、恐らく1件も存在しないのである!

今後、僕らは取り組んでいかねばならないだろう――「三島由紀夫のルーツが部落民だったとして、そのことが三島の残した作品や思想、そして僕らにとってどんな意味があるのか?」。そして「ある作家のルーツが被差別部落だったとして、そのことがなぜタブーになってしまうのか?」

この記事へのコメント

2006年08月07日 01:30
日本の文化でいえば、能、歌舞伎などにもかかわる問題でしょうか。
あんらぎ
2006年08月08日 22:35
もしそれが本当なら日本が右翼化していく今の時代だからこそ、「盾の会」を結成した思想や三島の心理に迫る研究を被差別部落にからめてしたら面白いと思いますね。
山吹
2012年07月17日 21:31
だから何?(´・ω・`)
通りすがり
2017年03月07日 03:07
貴重な情報ありがとうございます。
しかし、1,2の情報から、どうして下記のような結論に結びついたのかが疑問でした。

情報
1. 三島の父方祖父の出身地は兵庫県加古川市(印南郡志方村)である。
2. 志方町の同和地区人口は、町全体の三割近くを占める。

結論
よって、三島の父方の祖父が被差別部落出身ということを、ほぼ確信した。

「同和地区人口は、町全体の三割近くを占める」ということは、裏を返せば、七割近くは同和地区ではないということになります。
このため、確率的には同和地区でない方が高いことになりますので、「確信」に至る理由としては弱いかなと思ってしまいました。
その疑問は・・・
2018年11月12日 10:09
『うわさの真相」・・・にズバリ、三島のルーツ 加古川市があり‘三島(平岡)の親戚が部落に在住‘で、

「あれこれ 言いますと‘三島に‘迷惑がかかります」と答えている。

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    Excerpt: 日本国民すべてがあんまり気違いではなさすぎるので、三島氏は、せめて自分ひとりで見事に気違いを演じてやろう、と決意したのにちがいない Weblog: ぱふぅ家のサイバー小物 racked: 2011-01-14 11:14
  • フェラガモ バッグ

    Excerpt: 三島由紀夫の被差別部落ルーツ説は未だタブー ガンジーブログ:日本とアメリカ、そして世界を想う/ウェブリブログ Weblog: フェラガモ バッグ racked: 2013-07-03 06:11